富永教諭が淡水魚「カマツカ」の新種を2種発見
日本魚類学会英文誌「Ichthyological Research」に発表
関西学院高等部の富永浩史・教諭が大阪経済法科大学教養部の川瀬成吾准教授との共同研究で、コイ科の日本産淡水魚2 種Pseudogobio agathonectris(標準和名:ナガレカマツカ)とPseudogobio polystictus(標準和名:スナゴカマツカ)を、日本魚類学会英文誌「Ichthyological Research」に新種として発表しました。この研究成果は、4月24日(水)にオンラインで早期公開されました。
【発表論文】
原稿番号(manuscript number) DOI: 10.1007/s10228-019-00693-x
タイトル Two new species of Pseudogobio pike gudgeon (Cypriniformes: Cyprinidae: Gobioninae) from Japan, and redescription of P. esocinus (Temminck and Schlegel 1846)
Corresponding author Tominaga Koji
■著 者:富永浩史、川瀬成吾
【内 容】
新種の淡水魚2 種は、長い間気づかれないまま、カマツカという淡水魚に含められていました。カマツカは本州から四国、九州にかけて広く分布するコイ科の淡水魚で、主に川の中流域でよく見られるありふれた川魚です。今回、発表する論文では、日本各地から集めたカマツカ類の標本と、「カマツカ」の基準となる標本、そして海外のカマツカの近縁種の標本の形態を詳しく比較した結果、近縁種のどれとも異なる2種類が存在することを明らかにし、新種であると結論付けました。
本研究の筆頭著者である富永教諭は、関西学院高等部在学時に、京都府の農業用水路で取れるカマツカに顔つきや体形が異なる2 タイプがあることに気づきました。これをきっかけに、関西学院大学理工学部で分子生物学を学んだ後、京都大学大学院理学研究科に進学。淡水魚の専門家である渡辺勝敏・京都大学理学研究科准教授の指導を受け、日本全国のカマツカを採集し、遺伝子を調べる研究をしてきました。
その結果、日本産のカマツカには遺伝子が大きく異なる3 系統が含まれていることを明らかにしました。そのうち2 系統は西日本に、1 系統は東日本に分布しており、研究のきっかけとなった京都府のカマツカの2 タイプは、西日本の2 系統に該当することもわかり、2016 年に発表しています(Tominaga K, Nakajima J, Watanabe K (2016) Cryptic divergence and phylogeography of the pike gudgeon Pseudogobio esocinus (Teleostei: Cyprinidae): a comprehensive case of freshwater phylogeography in Japan. Ichthyol Res 63:79-93)。
遺伝的に識別したこれら3 系統の標本の形態を詳しく調べたところ、口唇やひげの長さ、胸びれの形状、体の斑紋などの違いから、互いに区別できることがわかり、この3 系統のうち1 系統は本物の「カマツカ」で、2 系統は別の新種であると考えられました。これを証明するには、本物の「カマツカ」がどの系統なのかを明らかにする必要があります。「カマツカ」の基準となる標本は江戸時代にシーボルトが持ち帰ったもので、現在はオランダの自然史博物館(ナチュラリス生物多様性センター)に所蔵されています。そこで、富永教諭は、共著者で魚類分類学の専門家である川瀬准教授に協力していただき、オランダにある「カマツカ」の基準となる標本の形態データを取得。そのうえで、日本の3 系統の形態データと比較解析したところ、本物の「カマツカ」が西日本の系統のうちの一つに該当することを突き止め、残りの2 系統については新種として記載することができました。この論文では、新種2 種の詳しい定義に加え、「カマツカ」の再定義も行っています。
新種2 種の名前の由来や特徴は次の通りです。まず「Pseudogobio agathonectris(シュードゴビオ・アガソネクトリス)」の種小名「agathonectris」は、ギリシャ語で「優れた泳ぎ手」という意味です。カマツカはドジョウやハゼのようにお腹を川底につけて泳ぐ魚ですが、この新種の魚は遊泳力に優れており、時にはアユなどに混じって川の中をすばやく泳ぎ回ることに由来しています。標準和名の「ナガレカマツカ」は、この魚が清流の流れの中に住むことに由来しています。この魚は中部地方以西の本州の一部の河川の主に上流域に分布します。次に「Pseudogobio polystictus(シュードゴビオ・ポリスティクトゥス)」の種小名「polystictus」は、ギリシャ語で「多くの斑点のある」という意味で、この新種の魚が体に多くの小黒斑をもつことに由来しています。標準和名の「スナゴカマツカ」は、日本の童謡「たなばたさま」の歌詞に出てくる「きんぎん砂子(すなご)」に由来します。体に多くの小黒斑を持っており、それらの間の部分の鱗は金や銀にきらきらと光って見えるので、天の川にたとえてこの名前がつけられました。この魚は中部地方以東の本州の河川中流域を中心に広く分布します。
【富永教諭のコメント】
高校生の頃の発見をきっかけに研究を進め、その大きな成果の一つとして新種が認められたことで、うれしさと達成感に満たされています。長い間、多くの人に見過ごされていたほど互いによく似た魚たちなので、その違いを客観的にデータで表現することに最も苦労しました。カマツカ類に関しては、今後探究したいおもしろいテーマが残っています。母校である関西学院高等部で教員をしながら、これからも研究を継続し、生物の授業や部活動の指導を通して、生徒たちに生物や科学研究の魅力を伝えていきたいと思います。