絶滅種に極めてよく似た外来淡水魚を確認(兵庫県・千種川)

2022.04.28

関西学院大学理工学研究科の田中康就さん(博士前期課程 2 年)と関西学院高等部の富永浩史・理科(生物)教諭は、兵庫県下では絶滅した淡水魚「スイゲンゼニタナゴ」に極めてよく似た外来淡水魚「カゼトゲタナゴ」を、かつてのスイゲンゼニタナゴの生息地である千種川水系で確認しました。本研究の成果は、4 月 28 日に日本魚類学会和文誌「魚類学雑誌」のオンライン版で早期公開されました。 

研究の概要
カゼトゲタナゴ(上写真)はコイ科タナゴ亜科に属する淡水魚で、九州北西部に分布します。兵庫県西部に位置する千種川水系にはかつて、カゼトゲタナゴと亜種関係(※亜種とは、同種の中で地域的に隔離され互いに形態的に異なる集団を指します)にあり、極めてよく似たスイゲンゼニタナゴ(下写真)が分布していましたが、1977 年以降確認されておらず、絶滅したと考えられています。千種川水系はスイゲンゼニタナゴの分布東限にあたり、現在は岡山県・広島県にのみ分布しています。スイゲンゼニタナゴは、環境省のレッドリストではごく近い将来における野生での絶滅の危険性が極めて高いとして絶滅危惧ⅠA 類に、かつ、種の保存法にも指定されています。

カゼトゲタナゴとスイゲンゼニタナゴは形態にわずかな違いはあるものの極めてよく似ており、外見での区別は困難ですが、分布が重ならず長期間にわたり隔離されているため遺伝子で明瞭に区別できます。本研究では、著者が千種川水系で採集した前記 2 亜種のいずれかに該当する特徴をもつ魚の外部形態と遺伝子を調査しました。その結果、外部形態・遺伝子ともにカゼトゲタナゴに該当することがわかり、遺伝解析の結果から佐賀県より移入された可能性が高いと推定されました。

タナゴ類は生きた淡水二枚貝の鰓(えら)内に卵を産み込むというユニークな繁殖生態をもち、産卵期には鮮やかな婚姻色(こんいんしょく)が現れることから、観賞魚や釣りの対象として人気があります。また、日本在来のタナゴ類の多くがレッドリストに記載されており、その保護意識からか、別の地域から持ち込んだ同種のタナゴや、その地域に元々分布しない種までもが放流され、確認される事例が多く報告されています。このような放流により、地域固有の遺伝子の消失や在来種のタナゴとの競合が起こる可能性があります。

本研究の例でも、もし千種川水系のどこかにスイゲンゼニタナゴが生き残っていた場合に、移入されたカゼトゲタナゴと交雑することでスイゲンゼニタナゴに遺伝的汚染が生じたり、千種川水系に生息する他の在来タナゴ類と競合が生じたりするなどの悪影響が考えられます。また、カゼトゲタナゴがスイゲンゼニタナゴと誤認されることで、絶滅種の再発見と勘違いされ混乱が生じる可能性もあります。一方で、カゼトゲタナゴも環境省レッドリストで絶滅危惧ⅠB 類に指定されている絶滅危惧種です。本研究は、様々な問題を含むこの外来淡水魚について報告し、今後の対策を取る上で重要な材料となるものです。

佐賀県産のカゼトゲタナゴ(上)岡山県産のスイゲンゼニタナゴ(下)※スイゲンゼニタナゴは許可を得た調査時に撮影したもの